投稿論文等紹介

当社は、環境問題のコンサルティング会社として、3つの部門が、環境政策と市場の動きに対応して、
それぞれの事業内容を展開しています

日経エコロジー

「国際的に説明可能な日本型の循環社会の構築を」

 
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『日経エコロジー』2000年8月号

『国際的に説明可能な日本型の循環社会の構築を』
~ドイツの循環経済法と日本の循環型社会形成推進基本法~

(株)佐野環境都市計画事務所
所長 佐野敦彦

日独の2つの法律の類似性と相違性

この5月に新しい環境関連法が、相次いで成立した。これらの中には、ドイツで制定された循環経済法に影響を受けた循環型社会形成推進基本法(以下、循環型社会基本法とする)がある。この2つの異なる国で成立した2つの法律はどこが類似しているのか、またどこが異なるのか比較してみることにしよう。
独循環経済法に相当する日本の法律は、廃棄物処理法である。独循環経済法は、旧廃棄物管理法を10年の歳月を要して全面改訂して、廃棄物処理の視点から上流側の消費、流通、製造等へ向けて社会システムの抜本的な見直しを求める政策フレームを提示した法律である。一方、循環型社会基本法は、環境基本法下での理念法として、個別に制定した廃棄物処理法や様々なリサイクル法をブリッジさせることを意図したものである。すなわち、現在進行形の個別法整備に理念的な考え方を付与しようとしたものという解釈が成り立つ。この法律制定の経過の相違は、後述する具体的な政策手法に顕著に現れている。
具体的に法律内容を比べてみると、日独の法目的はたいへん類似している。ドイツが「天然資源を大切にする循環経済を促進し、環境適合的な廃棄物の処分を確保すること」とし、「循環経済の原則」を明示して「廃棄物の発生回避、有効利用、環境適合的処分を優先順位づけて」実施することを目指している。すなわち、政策フレームを明確にした上で、市場を通じて調整していこうという政策手法である。
一方、日本は、「廃棄物等の発生抑制、循環資源の循環的利用(再使用、再生利用、熱回収)の促進、適正な処分の確保により、天然資源の消費を抑制し、環境負荷が低減される社会の形成」をめざして、国、自治体、事業者、国民の責務を決めた上で、基本計画の立案とそれに基づく必要な措置の実行を求めるものとしている。めざすべき理念はほぼ同じである。

2つのEPRをめざす2つの法律

大きく異なるのは、これらの理念を実行するための手段である。ドイツは、廃棄物の発生回避の手段として、製造物環境責任を明確にして製品価格への処理等費用の内部化を通じて忠実な汚染者負担原則を貫こうという理念を掲げた。ここでいう「汚染者」とは、製品廃棄物の場合には排出者たる消費者を、製造や流通販売過程で発生する廃棄物に関しては、排出者たる事業者を、家庭から排出される生ごみ等の生活廃棄物に関しては、消費者である。生活廃棄物の場合には、自治体による事業といえども忠実な実費徴収という形で原則を適用せんとしている。換言すると、一切補助金等の公的資金は使わず、政府部門を縮小しつつ、できるだけ民間による市場システムを志向したわけである。ドイツの法制定の背景は、廃棄物処理に要する社会的費用があまりにも高くなってしまったことがあることに留意したい。
それに対して、既存の法律を束ねつつ新たな理念を付与しようとする循環型社会基本法は、各関係者に応分の責務があることを明示して、基本計画の立案により必要な措置を講じることを求めている。言うなれば、行政指導の根拠法に匹敵するプロセスの法制化を行ったものとも解釈できる。廃棄物の発生をできるだけ削減するために、関係者に応分の協力を求める理念を定め、今後計画立案していくプロセスを明示した。すなわち、どのような役割分担でどのような費用徴収手法により行うかは、この理念法からスタートとなっている。ほぼ並行して成立したいくつかのリサイクル関連法をみるに、結果として各々の製品廃棄物や廃棄物の特性に応じて役割分担や費用徴収手法が異なってくる形となっている。
容器包装リサイクル法では、分別収集を自治体に、再商品化義務を製造事業者に課した。家電リサイクル法では、回収義務を販売店に、再商品化等義務を製造事業者に課した。
これは、しばしば、欧州の政策EPR(Extended Producer Responsibility)に対抗的に米国が主張しているもうひとつのEPR(Extended Product Responsibility)に近い概念である。また、役割分担の視点から責任分担型政策(Shared Responsibility Policy)とも呼ばれている。

これからの仕組みづくりに何が求められるか

日本社会は、循環型社会基本法の成立により「基本計画に基づく必要な措置を適切な役割分担により適正かつ公平な費用負担で」実施する仕組みづくりの緒についたといった方が良さそうである。全ての責任を製造事業者にかける政策は、問題点も指摘される昨今であるので、これを絶対視する必要はないが、循環型社会基本法の成立は、これに代替する政策手段を今後構築することが社会的に合意されたということになろう。
ドイツの理念は明確でわかりやすい。しかし、実際の運用では「生みの苦しみ」を味わっているものの、技術革新や新しい環境ビジネスが国際的な優位さを築きつつある。これからが期待される日本型システムは、国際的に説明可能な政策手法になることを願わずにはいられない。とりわけ、家電等電気電子製品のような国際商品の場合には、この政策づくりが、日本のローカリティに配慮するあまり、国際標準性を欠くようなことがあれば、その産業の国際競争力を失うことにもなりかねないということを基本計画の立案者へ指摘しておきたい。

ドイツ循環経済の原則
優先順位付け
【1】回避

【2】素材あるいはエネルギーとしての有効利用
↓↓
【3】環境適合的処分
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
責任所在
製造事業者責務の拡大を通じて

経済手段
汚染者負担の原則に忠実な履行
日本の循環型社会
優先順位付け
【1】発生抑制

【2】再使用、再利用及び熱回収
↓↓
【3】適正処分
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
責任分担
基本計画に基づき
必要な措置を適切な役割分担で
措置に要する費用
措置に要する費用を適正かつ公平に負担
 
 

東洋工業情報通信Support

「環境の時代、ドメインチェンジ(事業領域の見直し)が必要!」

 
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東洋工業情報通信サポート「Support」第3号(2004年5月)

環境の時代、ドメインチェンジ(事業領域の見直し)が必要!

(株)佐野環境都市計画事務所
所長 佐野敦彦

リサイクル等循環型社会をめざす動きが、各方面から聞こえてくる。それは、社会的に必要なものであろう。しかし、敢えてそういう時代であるからコメントすると、リサイクルは手段であって目的ではない。ビジネスとしての経済性があり、かつ環境負荷が低減できるようなものでなくてはいけない。話題にはなるもののビジネスにはなっていないという例が至るところに散見されている。これからのビジネスを考えるのであれば、既存ビジネスドメイン(事業領域)を見直し、従来の製造から販売段階までではなく、消費、廃棄段階まで広げた事業領域を意識することが重要である。すなわち、製品のライフサイクル全体をどう管理し、ビジネス化するかという視点が今後ますます重要になってくるのではないだろうか。もちろん、リサイクルも重要な視点である。されど、それはひとつの視点に過ぎない。環境は、新しいビジネスのキーワードになりつつあることだけは事実である。

 
 

都市清掃

「欧州におけるEPR政策の進展」

 
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2003.03.都市清掃

■特 集■ 国際化するリサイクル
欧州におけるEPR政策の進展
~日本との比較を通じて、今後の政策議論へ向けでの争点化~

佐野敦彦

1.はじめに

2002年末に、欧州では、難産だったWEEEと呼ばれる使用済み電気電子製品に関する指令がほぼ決着を見る動きとなっている。これは、ドイツの容器包装政策を皮切りにした循環経済法から発展した欧州における拡大型生産者責任政策(以下、EPR政策)の完成形を示したものと判断される。
以下においては、今までの経過を振り返りつつ、欧州におけるEPR政策の完成形は何を目指しているのか、どのような狙いを持ったものなのかを巨視的に明らかにしたい。詳細な部分に立ち入るには、この紙面だけでは無理であるので、あえて、大きな方向性を意識した紹介をしてみたい。そして、今後日本でも議論が本格化されるであろう、容器包装リサイクル法及び家電リサイクル法等の見直し、あるいは、発展的なEPR政策型の法律作り、社会システム作りにどのような課題を投げかけるものかを整理してみたい。

2.欧州における3ステップのEPR政策の展開

1).容器包装からのEPR政策のスタート
周知のように欧州におけるEPR政策は、ドイツの循環経済法を基本とするものである。そこで、基本となったのは、次の考え方であった。

  1. (1) 使用済み製品の引取り及び再資源化・処理の製造事業者責任
  2. (2) 引取り時に無償引取り(実質的価格内部化)
  3. (3) 処理の優先順位化と再資源化率の目標設定

(1)は、使用済み製品のブランドを有する製造事業者及び輸入事業者が引き取り、再資源化・処理を行うことを義務づけるものであった。(2)は、その引取り時に再資源化・処理のための費用を徴収しないで、製品価格への内部化を通じて対応することを義務づけるものであった。(3)は、製造事業者の役割は、先ず使用済み製品が廃棄物となることを回避させるよう努力することを最優先に、続いて再使用/再利用を、それができない場合には初めて再資源化を、そして最後に適正処理をという優先順位をつけた対策(ドイツでは、循環経済の原則といわれている)を義務付けたものであった。そして、再資源化に関しては目標設定及び技術への制約を課すことも必要に応じて行うというものである。
ドイツ及び欧州の主要国では、手法等は若干異なるものの、多くは上記を基本としたシステムが動きつつある。但し、国によってその状況に大きな開きがあることも事実である。
最も欧州をリードしているドイツでは、DSDという統一組織を基本にして、従来からの自治体による収集体制から新体制へ移行させて容器包装リサイクルが推進されている。そして、一昨年来、大いに論じられたのは、包装材令制定当初から争点とされていた再充填容器(リターナブル容器)の扱いであった。この包装材令では再充填容器により販売される飲料類が、総販売量の72%を上回るようにという条件が付されており、それを満たせない場合には、罰則としてワンウェー容器の販売に対して強制的デポジット制度を導入するというものであった。
3年前にこの数値を下回ったために、デポジット制度導入条項が発動され、議論がかまびすしかったわけである。昨年の総選挙で与党が辛くも勝利したことにより、法律どおりの履行が行われる見込みとなっている。すなわち、再充填容器による販売比率を遵守した上で、ワンウェー容器による販売には、強制的デポジット制度を導入するというものである。
これらを通じて、日本社会としてもう一度論じなければいけない容器包装政策は、

(1) そもそも、日本社会における容器包装製品の販売はどうあるべきなのか。すなわち、再充填型の容器というものを重視する政策とするのか、ワンウェー容器と公平な政策とするのかということである。これは、製品開発から製造、販売、そしてその処理・再資源化までの社会システムを大きく変えるものである。
(2) 製造事業者に責任を課すということは、何を目的としたものであるのか。ドイツでは、責任を課すことにより、事業者の事業領域を改めさせて、環境負荷を減らすよう促すことが主たる目的であり、そして、結果的に社会的費用をできるだけ抑制しようとするものである。日本の容器包装リサイクル法は、自治体による家庭系一般廃棄物としての容器包装の適正処理を促進させることが狙いであった。では、改めて、今後自治体は、社会システムへどう関わるべきなのか。また、製造事業者は何に、どこまで責任を負うべきなのか。

の2点であろう。


2).ELV(使用済み自動車)における政治決着

容器包装からスタートした欧州のEPR政策は、後述するWEEEとELVで躓き、長い議論の未に、2000年10月にELVで先ず決着した。
何が原因で躓いていたのか。それは上記の3原則を遵守しようとしたのであるが、容器包装と製品特性において大きな違いがあったということである。それは、耐久消費財かそうでないかという点である。
非耐久消費財である容器包装は、過去の遺産ともいうべきものがほとんどない。それに対して、「Historical Waste」と呼ばれる過去に販売された製品がある耐久消費財の場合には、それをどうするか、これが大きな争点となったわけである。とりわけ過去に販売したものを無償で引き取るということは、そのための費用をどう捻出したら良いのかという大きな問題に突き当たる。これを新品の購入者に課せば、新品の購入者は、自らのものと過去のものの二重払いを余儀なくされるわけであり、これは当然経済に与える影響も大きい。低成長が続く欧州であれば、このインパクトをできるだけ抑制したいという思いは、製造事業者側だけでなく、政策当局も当然である。
それから、もう一点は、再資源化・処理の問題ではなく、製造段階へのフィードバックとして、有害物質の管理責任の強化という新たな政策争点の浮上が挙げられる。当初のEPR政策は、理念としての設計へのフィードバックと処理責任の二点を求めるものであった。それを実行に移させようとした場合に、設計段階での取り組みは、易処理性、易リサイクル性だけでなく、有害物質の管理問題も含めようという視点が浮上したわけである。
すなわち、EPR政策は、製造事業者にライフサイクルでの製品責任をもたせようという方向に強く踏み出したわけである。しかし当然これに抵抗する事業者が存在する。過去の遺産だけでなく、設計への影響は無視するわけにはいかない。
この二つの争点に対して、ELVは、ある意味の政治決着をつけた。すなわち、次のような進展が起こったのである。

(1) 耐久消費財へのEPR政策の導入拡大を容認する。新車は、価格内部化した上で、廃車のまま無償で引取りとする。既販車は、時限を定めて(現時点では施行後5年)無償の廃車引取りをすることとする。これにより、過去に販売した製品も、時限を決めたとは言え製造事業者により無償で引き取られることとなった。
(2) 有害物質管理は、直ちに法制化した場合のインパクトの大きさに鑑み、自主取り組みとして政治決着とした。但し、鉛、枇素、六価クロム等は、実質的な使用禁止に近い措置である。
(3) EPRとしての製造事業者の責任というものの内容を再確認した。
1 / 設計への責任(Design responsibility)
2 / 実質的な回収及び処理スキームのオペレーション責任(Operational responsibility)
3 / 無償引取りによる経済的責任(Financial responsibility)
4 / 製品情報を開示する情報責任(Informative responsibility)

参考)OECDによるEPR政策の定義と狙い(OECDのガイダンスマニュアルより)
EPR政策の定義:製品に対する製造事業者の責任を製品のライフサイクルの消費後段階に拡大させた環境政策手法
OECDによるEPR政策のねらい:

(1) 上流側にある製造事業者へ使用済み製品の処理責任をシフトさせること。この処理責任は、物理的な回収・処理・再資源化及び/あるいは経済的な措置を含む。また、責任範囲は、部分的な場合と全体的な場合がある。
(2) 製品の設計段階に対する環境配慮を製造事業者に求めるインセンティブを付与すること。

3).欧州型EPR政策の完成形としてのWEEE(使用済み電気電子製品)

本年2月に指令の発効に至ったWEEEは、ELVによる政治決着を法制的に裏付けようという、まさにEPR政策の完成形を目指したものとなっている。すなわち、使用済み製品の引取り及びリサイクル・処理責任から製品のライフサイクルでの管理責任へと発展させたものということができよう。製造事業者にとっては、使用済み製品を引取るというような視点ではなく、従来の製造事業者の事業領域の変更を余儀なくされるものであり、まさに「ドメインチェンジ(事業領域の変更)」である。
基本的に目指している決着は、容器包装でも確認した3原則に合致したものであるが、

(1) 新製品は無償引取り(すなわち価格内部化)、過去に販売した製品は現在のマーケットシェアに応じて均等に負担(すなわち、新製品の購入者が表示費用を追加的に負担することにより、過去の製品の処理費用を負担)するという方向での決着を目指している。今後どこまでこれが指令の中で明文化されるか、あるいは加盟各国の国内法にゆだねられるのかは定かではないが、有力案として決着を目指している。
(2) 有害物質に関しては、別立てで有害物質の使用制限に関する指令(通称RoHS指令)を含めて、上述した製品のライフサイクルでの総合管理の方向が指令として発令される見込みである。
(3) 製造事業者の責任は、ELVで確認された4つの責任の方向で確認されると共に、社会的問題への制約も確認された。すなわち、日本では、セーフティネット問題として、廃車リサイクル法で議論された問題へのEPR政策としての限界が確認された模様である。
具体的には、不法投棄問題への製造事業者の責任を追及しないで、現状どおり地方自治体の責任での対応とする。小規模事業者に関しては、別途加盟各国ごとに共同化の検討を行う。撤退企業や倒産企業の製品、いわゆる孤児製品に関しては、将来の問題としつつも、消費者による再負担を念頭におく。離島等の遠隔地問題に関しては、製造事業者による責任範田の問題として市場により対応する。

具体的には、不法投棄問題への製造事業者の責任を追及しないで、現状どおり地方自治体の責任での対応とする。小規模事業者に関しては、別途加盟各国ごとに共同化の検討を行う。撤退企業や倒産企業の製品、いわゆる孤児製品に関しては、将来の問題としつつも、消費者による再負担を念頭におく。離島等の遠隔地問題に関しては、製造事業者による責任範田の問題として市場により対応する。

EPR政策におけるセーフティネット機能に関して(廃車リサイクル法より例示)

  1. (1)中小規模事業者対策
  2. (2)孤児製品対策(撤退企業及び倒産企業による製品対策)
  3. (3)不法投棄対策
  4. (4)離島等遠隔地対策

3.日本における使用済み製品政策に参考とすべき点は何か

日本社会にとって、先ず考えなければいけないのは、対象となる使用済み製品が、国際商品かそうでないかという点ではないだろうか。容器包装は、比較的飲食料や雑貨が中心なので国内商品が中心である。それに対して電気電子製品や自動車は代表的な国際商品である。
環境政策であり、かつ経済政策である欧州のEPRを念頭におくときに、電気電子製品や自動車は国際商品の経済政策としてEPR政策を考えざるを得ないことを先ず問題提起したい。逆に、容器包装に関しては、比較論ではあるが、国内事情を反映しやすいものであるといえよう。

1). 容器包装リサイクル法見直しへの視点

〈再充填容器とワンウェー容器の問題〉
欧州のEPR政策の進捗及びドイツ等における政策の修正点を見るに、日本の容器包装リサイクル法の見直しにおいて、関係者で論じるべき視点は次のような点であろう。
先ず、飲料容器が代表例であるが、再充填容器、すなわちリターナブル容器というものをどう位置付けるかである。現在の容器包装リサイクル法は、ワンウェー容器をリサイクルするための法律である。そして、リサイクルを積極的に推進するために、自治体による分別収集と製造事業者による再商品化を役割分担させた。これによって、反射的にリターナブル容器はダメージを受けることとなった。すなわち、ワンウェー容器が、自治体での一般会計による分別収集であるので、結果的に補助を受ける形となった。リターナブル容器は、全て市場を通じて関係者の費用でまかなわれることとなる。すなわち市場メカニズム外の自治体事業によりまかなわれる費用分だけ、ワンウェー容器が有利になってしまったわけである。
これをそのままにするか、何らかの改善を加えるか、これは、ただ単にリターナブル容器の問題というよりも、どのような社会システムを日本社会は構築するのかという問題である。また、企業にとっても、自ら構築している製造・流通システムを大きく変更しなければいけないかどうかの大きな課題である。
ドイツは、明確に政策として再充填型容器の促進を明示した。よくいわれる消費者による市場の選択ではなく、政策として選択したわけである。この良否を云々するよりも、一度この間題をきっちり議論するべきタイミングに来ていると思われる。政策により選択するのか、あるいは市場による選択とするのかが選択肢である。そして、市場による選択では、現在、再充填型容器が逆優遇を受けていることだけは事実である。これは、明らかに循環型社会形成基本法の理念に即してはいない。どう是正するかである。
〈責任範囲間題を自治体と製造事業者との役割分担と捉えて良いのか〉
欧州では、明確に製造事業者の責任範囲を、引取り及びリサイクル・処理とした。そして、その費用を全て市場メカニズムによるとした。すなわち価格内部化であり、公共事業による税システムを活用しないものとした。汚染者負担原則を忠実に履行したと表現できよう。
一方、日本の制度は、今後「直間内比率」をどうするかという課題をもったと判断して差し支えない。直間内比率とは、実際に処理に要する費用が、直接的に消費者から支払われるのか、自治体による税の仕組みからの間接費用で支払われるのか、あるいは価格へ内部化された費用により支払われるのかを表現する言葉である。かつては、すべて間接的な公共事業によりまかなわれていた。それを容器包装リサイクル法により、再商品化費用分だけ内部化させたことになる。明確な数値はないが、直感的には、瓶やペットボトル等飲料容器の直間内比率は、直:間:内=0:7~8:2~3くらいの比率である。また、その他プラスティックに関しては、0:5:5くらいではないだろうか。当然、ドイツは、0:0:10である。
日本の制度は、自治体事業の適正処理を促進させるために設けられた。そして、それは一定の評価をして良いだけの成果が短期間であげられたと判断される。関係者の努力の賜物である。では、次のステージではどう見直していくのか。これは、自治体の責任範囲と製造事業者の責任範囲をどうするかという命題ではなく、直間内比率をどうするかという視点から論じるべきと思われる。ちなみに、ドイツでは、家庭からの電気電子製品の回収を自治体が行うべく準備が進んでいるが、その場合の直間内比率は、Ⅹ:0:Yか、0:0:10を想定して、間接的な費用を0とすることだけははっきりしていると付記したい。
〈リサイクル率の設定による容器素材ごとの格差をどう評価するか〉
今回のドイツにおける強制デポジット制度は、再充填容器の市場占有率を既定したものであったが、その背景には、高いリサイクル及び再利用率を求めるという政策がある。日本の制度を見た場合には、現在のガラスや金属缶のリサイクル率をどう評価するか、それと若干の格差のあるペットボトルや紙カートン容器をどう評価するかという課題がある。
これらは、容器素材ごとの公平性とでもいえるものである。製造事業者及び消費者が製品を選択する場合に、容器素材をどう選択させるのかという視点から考える必要があるのではないだろうか。
それ以外にも、対象容器の範囲を家庭系だけに限定するべきなのか、ドイツのように輸送用包装等事業系まで含めた対象に拡大するのか等の課題もあることを付記する。参考までに、PCW研究会が2001年11月にまとめた見直し課題を紹介しておく。

容器包装リサイクル法の見直しのための課題の抽出

〔「PCW研究会報告(II)」(2001年11月)より〕
〈そもそも論として考えるべき基本事項〉
1 / 対象範囲・責任範囲問題
2 / 再使用型容器包装問題
〈手法的あるいは運用的課題として見直しするベき事項〉
3 / 制度を知らない消費者問題
4 / 変数調整問題
(分別収集計画量と再商品化計画量の調整)
5 / フリーライダー問題
6 / 再商品化技術の選択問題
7 / 指定法人のあり方問題
8 / 特定事業者が採用できる3つの選択肢間の公平性問題


2).家電リサイクルの発展形一使用済み電気電子製品のEPR~

容器包装と同様に、家電リサイクル法も、家電4品目に限定してのリサイクル法であった。では、欧州で実施されたように、全電気電子製品まで拡大するのか、あるいは、どこまでを対象にして、どこまでを対象にしないのか。欧州の場合には、全製品を一度に対象とすることにより製造事業者のドメインチェンジ(事業領域の変更)をさせようという意図が強く働いている。日本の家電リサイクル法は、先ずリサイクルの体制を整備させようとする意図が働き、それは非常に成果をあげていると判断される。そこで、次をどうするかが大きな課題とならざるを得ない。
欧州で論じられた争点がそのまま次の日本の争点になると思われる。第一に、費用徴収問題。排出時に徴収していたことにより、発生する可能性があるといわれた不法投棄をどう評価するか。予想に反して、大きな社会問題にはならなかったのではという印象を持ってているが、全くないわけではない。では、欧州と同様に、価格内部化を求め、費用徴収手法を見直すのか。もしそうであるならば、既版品をどうするのか。これは大きな課題である。
第二に、リサイクルだけでなく設計へのフィードバックをどこまで意識した政策とするのか。その場合には、現在の自主的取り組みとなっている有害物質の取り扱いが焦点となる。前述したように、電気電子製品はその多くが国際商品であり、欧州政策の影響を既に日本の製造事業者は受けてしまっている。これを考慮したうえで、日本の政策をどうするのかである。必ずしも欧州がグローバルスタンダードではないだけに、非常に難しい判断が必要となろう。
また、同様の話は、現在準備が進みつつある廃車リサイクル法にも言えることである。国際商品の場合に、日本の固有問題をどこまで重視するのかということは、社会問題の視点からは大変重要である反面、経済問題という視点からはダブルスタンダード化する危険性をはらんでいる。

4.最後に

以上のように、最近の欧州におけるEPR政策の動向を踏まえた日本の使用済み製品政策のあり方に関して若干の考察を加えてみたが、現在に至る様々なリサイクル法が、課題はあるものの、日本社会の実情に応じてそれなりの対応をしているだけに、これからの見直しが非常に難しくなっているといわざるを得ない。じっくりと腰を据えた健全な議論を関係者に期待したい。
自治体関係者には、自らの財政状況等に鑑みた視点からの議論も重要であるが、社会システムとしてどうあるべきか、あるいは自治体という公器がどのような役割を負うべきかを中長期的視点から考える必要があろう。また、製造事業者にあっては、自ら製造販売した製品のリサイクル・処理問題は自らの問題として、対策をどう講じるかを率先して検討するくらいの認識が現時点で既に必要であり、それを自治体等による公共事業費に負わせようという視点は厳に慎むべきものであろう。もしそのような視点に立つのであれば、国民の理解が得られないだけでなく、この時点で今後厳しさを増す国際競争に負けることを事前に認めるようなものである。
環境負荷をできるだけ抑制しつつ、社会的費用を最小にする社会システムはいかにあるべきかという基本命題へ立ち返ることであろう。

 
 

環境ビジネス

「リサイクルビジネス 成功のための5つのチェックポイント」

 
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2004.03.環境ビジネス

リサイクルビジネス
成功のための5つのチェックポイント

リサイクル法規の成立によって多くのリサイクル関連ビジネスが誕生してきたが、
成功のリサイクルビジネスモデルもあれば、失敗のビジネスモデルもある。
両者の違いは一体どこにあるのか。失敗の要因から成功モデルのヒントを探る。

リサイクルビジネス成立の秘訣 政策・ニーズと市場メカニズム

「リサイクル」の社会的ニーズには二つの大きな要素があります。まず廃棄物処理の現状。最終処分場が困窮し、ダイオキシン問題などで一時的に焼却処理の危険性も取りざたされました。こうした処理への不安がリサイクルニーズにつながったと言えるでしょう。もう一つは政策ニーズです。関連する法律が次々制定され、リサイクル推進は社会的にも認知されたことが大きい。
一方、リサイクルはもともと市場経済のメカニズムにのっとり、動いていたものでもあります。リサイクルビジネスも、社会的ニーズと市場のメカニズムがうまくブレンドされた場合には成功している。
反面、政策や社会的ニーズに合致しても市場経済下では成立しない場合、「とにかくリサイクルすればよい」と動いた事業では破たんしたケースが多い。マーケットの中でリサイクルするためには、再資源化した先の需要が必要で、競争性も求められます。

海外市場や再生資源の需要 それぞれのビジネスの課題

具体的に例を挙げましょう。ペットボトルのリサイクルは政策ニーズから立ち上がった。しかし良く見ると、容器包装リサイクル法の対象となる部分、対象外の市場で動いている部分の二重マーケットになっている。事業系・自治体が溶リ法によらず収集していたものは、市場論理の中で動いているはずで、経済合理性を求め、海外まで含めたマーケット形成が進んでいます。
中長期的には、いずれ市場と政策のニーズがうまくおりあった形で収欽するはずです。言い換えれば環境負荷を減らしながら経済性も成立する地点です。ただそれまでにはポリティカルなプロセスを経ることになるでしょう。
家電についても政策により新しい仕組みが作られましたが、そのためかえってリユースの市場が顕在化したという側面があります。素材としてのリサイクルはメーカー中心の市場の内部で進行していますが、リユースは国内での再使用・国際的な再使用・国際的な再資源化という3つのパターンをもつ内外一体の市場になっています。
国内でゴミにすれば費用がかかるというプレッシャーからリユースが選択され、ニーズに合った商品は流通する。グレードの低い製品は場所を変えることで市場性をもつ。東南アジアを中心としたマーケットが広がっています。
建築廃材についても政策ニーズや処分場の不足がリサイクルを後押ししています。高度経済成長期の建物がリニューアル期にさしかかる今後10年内にはピークを迎えるでしょう。問題は分別解体された再生資源の需要をどうつないでいくか。出口の問題をクリアできた企業が生き残るなど、事業者の淘汰も進むと考えられます。
以上の品目と比較し、政策によるプレッシャーがあまり強く働いていないのが食品リサイクルです。段階的な排出削減を求める法律で、処理施設不足も顕在化した後のため、市場も比較的冷静な反応です。
再生資源には主に飼料・肥料の2種類がありますが、前者はフロー=消化されていく資源、後者はストック=貯えられるものです。市場での成功はいかにストックとしての需要が維持できるかが最大の課題。ガス発酵等エネルギー回収にはまだ技術的な発展が必要で、政策的なプレッシャーがさらに必要となるかもしれません。

- 失敗の事例 -
誰がリサイクル処理の委託者となるかの判断ミス

家電リサイクル法の施行に合わせ、あるリサイクル会社は、施設を整備して待っていれば、家電メーカーが廃棄品を持ってくると予想していた。少なくともそれまでのリサイクル事業では、そういう流れだったのです。
ところが新しい仕組みは、排出者が委託者ではなく、メーカー自体が委託者となった。発注者が変われば事業の枠組みも変わります。この発想の変化についていけず、見誤った例は大手のリサイクル業者にもあります。
また、リサイクルは良いことだからと採算性を考えず費用をかけすぎて失敗した事例もあります。環境負荷を軽減しつつ、経済性も維持できるリサイクルしか成り立ちません。マーケットにさらせば数倍のコストがかかるはずなのに、補助金のおかげでまだ成り立っている事業の典型例でしょう。
年内に施行予定の自動車リサイクル法でも、既存の仕範みを拡張し、従来通り解体業者により回収されたフロン・エアバッグ・シュレッダーダストなどを引き取り、リサイクルする義務はメーカーに課せられました。しかし全車的な再資源化をメーカーがすべて引き受ける仕組みもあり、メーカーがどれだけ使用済み自動車をマネジメントするかが、ビジネスの鍵となります。
海外市場では、廃棄物はバーゼル法の適用を受けますが、資源となった時点でフリーとなります。輸出した相手国で、処理する技術レベルが国内と同水準であることが求められるでしょう。経済面での格差だけを利用した移動なら、社会的には容認されない。
さらに政策は動脈、静脈の区別なく廃棄物の責任を問う方向に進んでいます。市場も両者の区別がないトータルな形になっていく。企業がリサイクルしたプラスチックを使用した方が安上がりと判断すれば、仕組みも変わってきます。さらに、サービス化(レンタルやリース)事業が、今後リサイクル事業とコンペティテイブになってくる事態も考えておく必要があるでしょう。


リサイクルビジネス
成功のための5つのチェックポイント
【1】 まず政策が動くのか、動くとすれば処理責任者は誰になるのか
【2】 環境負荷の低減と経済性をクリアできるか
【3】 リサイクルの需要が安定的で継続的なものか
【4】 需要のマーケットは国内で閉じるのか、国際的な市場の影響を受けるのか
【5】 リサイクルの代替となる廃棄物処理事業はどう展開するか
失敗するリサイクルビジネス
5つの盲点
【1】 環境負荷の低減と経済性が両立していない
【2】 リサイクル処理の責任所在を確認していない
【3】 海外マーケットを視野に入れていない
【4】 再資源化した後の需要先を開拓していない
【5】 政策の動き・市場の動きを注視していない


 
 

日経エコロジー

「リサイクルに立ちはだかる会計と税制 1」

 
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『日経エコロジー』2004年12月号

よくわかる環境法
リサイクルに立ちはだかる会計と税制 (1)

文/佐野敦彦 佐野環境都市計画事務所所長

処理費用の価格内部化を妨げる現行制度の矛盾

税制や会計の本格的な議論を抜きに進められてきたリサイクル政策の矛盾が露呈し始めている。現状では、製品価格に内部化し処理費用を徴収した場合、利益と見なされ、課税されてしまう。


使用済み製品の処理費用を製品価格にいかに内部化するかは、拡大生産者責任(以下、EPR)の考え方に基づき進められているリサイクルにおいて大きな争点となっていることは周知の事実である。
しかし、その政策スキームの検討過程やその後の実施過程において、大問題として内在しているのは、実は税制問題であり、会計問題であることはよく知られてはいない。
現行の制度では、処理費用を製品価格に内部化して消費者から徴収した場合、その処理費用が利益と見なされ、課税されかねない。すなわち、リサイクルの推進が、生産者などに新たな負担を強いることになってしまう。既存の税や会計の仕組みが、環境政策の進展を阻害する要因として立ちはだかっていると言わざるを得ない。
今後、予定されている様々なリサイクル法の見直しにも、この間題が大きく影を落とすのは必至だ。本稿では、現実的な論議が進められることを期待して、問題振起したい。

内部化を避けた家電、自動車

使用済み二輪車のリサイクルを進めるため、メーカーなどによる自主的な取り組みが、今年10月から始まった。この取り組みでは、10月以降に販売される製品は価格に処理費用が内部化され、廃棄される時点では無償で引き取るという仕組みを取り入れている。家庭系の使用済みパソコンに続き、価格内部化を導入した2つ日の例である。
経済学では、「市場が完全競争的であれば効率的な資源配分が成立する」とする考えを前提にして、環境問題を外部性の一形態としてとらえ問題視する。ここでの外部性とは、市場を経由しない資源配分のことである。よって、この外部性を何らかの形で内部化することが、資源の効率的配分を促すと考えられている。
1990年代にドイツから端を発して欧州全体の政策に、そして日本を含む多くの国に影響を与えているEPR政策は、このような考え方を背景にしている。生産者に使用済み製品の処理義務を課し、効率的な製品設計を促すことで環境負荷を減らすとともに、処理費用を低減するような社会システムの構築を目指したものである。
EPR政策の始まりは、ドイツの包装材政策である。使用済み製品の処理に要する費用負担を含む処理責任を生産者に課した。この考え方は、EPR政策として欧州の包装材、自動車、そして電気電子製品へと展開された。日本においても同様に、容器包装、家電4品目、そして自動車などのリサイクル制度の設計に影響を与え、今日に至っている。

今年10月1日から二輪車のメーカーなどによる自主的なリサイクルが始まった ただ、その責任範囲や費用徴収の方法は、欧州内においても、また欧州と日本の間においても異なる様々な考え方が存在し、一意的に定まってはいない。
製品価格に内部化された処理費用は、その製品が自動車や家電のような耐久消費財の場合には、会計年度内ではなく、数年後に廃棄される時点で充当されることになる。前述した二輪車では、耐用年数を7年間と想定しているため、処理費用は販売から7年後の処理に充当される。

バイク
  ただ、その責任範囲や費用徴収の方法は、欧州内においても、また欧州と日本の間においても異なる様々な考え方が存在し、一意的に定まってはいない。
製品価格に内部化された処理費用は、その製品が自動車や家電のような耐久消費財の場合には、会計年度内ではなく、数年後に廃棄される時点で充当されることになる。前述した二輪車では、耐用年数を7年間と想定しているため、処理費用は販売から7年後の処理に充当される。

今年10月1日から二輪車のメーカーなどによる自主的なリサイクルが始まった


この場合に問題になるのが、会計年度内に発生しない費用の会計処理だ。メーカーは製品価格に含まれた処理費用の充当分を引当金ないし準備金などとして内部留保し、課税されないような形で会計処理したいと考える。
しかし、現実にはそのような引当金や準備金のような制度は、国内では認められていない。将来の処理のために内部留保しなければならない費用なのに、その会計年度の売り上げと見なされ、黒字決算の場合には利益として課税される可能性がある。
既に制定されている家電リサイクル法や自動車リサイクル法の制定過程でも製品価格への上乗せか、内部化が検討された。だが、上記の問題が解決されなかったために、いずれも処理費用への課税を回避できる徴収方法を採用した。
家電リサイクルの場合には、製品価格に処理費用を内部化するのではなく、廃棄時にリサイクル料金として別途徴収する方法を選んだ。
自動車リサイクルの場合も同様に、価格内部化を避けた。廃棄時ではなく、販売時に処理費用を徴収する前取り方式にしたが、消費者からの預かり金として公益法人に積み立てるという方法が導入された。自動車メーカーが処理を実施したときに、預かり金を上限として費用を請求するというシステムである。
メーカーにとっては、リサイクルを推進するために新たな税負担が生じるという事態は避けたいところだ。いかにして課税されない方法を考えるかが重視された。
一方、価格内部化を選んだパソコンや二輪車メーカーは、内部化した処理費用を今後どのように会計処理していくのだろうか。
パソコンや二輪車のメーカーは、(1)販売量と処理量、(2)将来と現在の処理費用-という2つの変動要因によって、それぞれリスクを負ったこととなる。

(1) 現在(二輪車は7年後の無償引き取りが始まる時)の販売量と廃棄量がほぼ同じであれば、上乗せする金額と処理に要する金額が同等となる可能性があるので、損益的には中立である。しかし、販売量が廃棄量を上回った場合には利益として課税され、下回った場合には、利益から処理費用に充当する必要がある。
(2) 将来の処理費用が現在想定されている処理費用を上回った場合には、利益から充当の必要がある。下回れば、利益として課税される。
おそらく、先行しているパソコンメーカーは、これからこの問題に直面するのではないだろうか。

二輪車のリサイクルシステムの概要
新車は販売時にリサイクル費用を徴収する価格内部化が特徴。
既販車の場合は、廃車するまでにリサイクル費用をユーザーが振り込む


課税覚悟で売り上げ計上か?

さらに、7年後の無償引き取りを想定している二輪車メーカーは、今度どのような方針で会計処理するのかが問われることとなる。想定される解決策は、以下の2つだけだ。

(1) 販売価格に内部化して売り上げ計上する。実質的には、課税を覚悟しての売り上げ計上になる。
(2) 販売価格への内部化を避けて、7年後からの上乗せ計上とする。この場合には、7年間の新車販売量に相当する処理費用が将来の負債となり、それ以降の売り上げから処理費用を充当する。一時的に簿外債務が発生することになる。

両製品とも国内外で再利用などに回されるものが多いため、廃棄量が極端に増えないと想定し、会計処理の問題は先送りされた。
だが、会計上(税務上)これらの処理費用が計上されて、製造原価に反映されてこそ、企業の行動に影響を及ぼすことになる。この間題は、環境政策の進展のために幅広く論じるべき大きな課題と思われる。
次回は、ドイツにおいてはどのような法改正が行われたかなどを見ながら、この間題を解決するために必要な方策を検討する。

 
 

日経エコロジー

「リサイクルに立ちはだかる会計と税制 2」

 
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『日経エコロジー』2005年1月号

よくわかる環境法
リサイクルに立ちはだかる会計と税制 (2)

文/佐野敦彦 佐野環境都市計画事務所所長

ドイツは税制などを改正 環境政策が孤立する日本

会計処理や税制とリサイクル政策との整合性がないため、企業に新たな負担を強いる制度的な矛盾を前号で指摘した。
今号では、ドイツの政策を見ながら、その解決策を探る。

経済協力開発機構(OECD)が各国政府向けに取りまとめた拡大生産者責任(EPR)のガイダンスマニュアルは、「使用済み製品の処理または処分に関して、生産者が財政的および(または)物理的な相当程度の責任を受け入れる」ことを、EPR政策の中核的な考え方として位置づけている。
この財務的(財政的)責任という考え方は、欧州ではOECDのマニュアル以上に重視されており、日本のEPR政策との隔たりを見せている。

内部化で企業行動を変える

では、なぜ生産者の財務的責任が重視されるのだろうか。この財務的責任とは、使用済み製品の処理などにかかる外部化されている費用を製品価格に内部化させるための動機づけである。経済主体(生産者)にインセンティブ(場合によるとディスインセンティブ)を与え、内部化へと誘導するわけだ。
EPR政策で製品の使用済み段階にまで生産者の責任を拡大させるのは、生産者が製造工程までさかのぼって廃棄時にかかる処理費用を削減するように努力することを期待するからにほかならない。
であるとすれば、企業内部の会計上(税務上)、これら処理費用がきちんと計上され、製造原価に反映されてこそ、企業は費用削減のための努力を認識できる。財務的責任が、企業の行動に大きな影響を及ぼすインセンティブになるはずである。
しかし、現実には会計上(税務上)の取り扱いが明確になっていないため、十分な効力を上げられない。
企業に財務的責任を負わせることは、あくまで手段であって目的ではない。法律の審議でしばしば登場する「不法投棄を防ぐためには価格への内部化が必要」という主張は、EPRの本質から逸脱した議論と言わざるを得ない。
ちなみに、耐久消費財ではないが、容器包装リサイクル法においては、再商品化費用が製品価格に内部化されている。しかし、筆者が複数の上場企業にヒアリングした結果、ほとんどの企業が再商品化費用を製造原価に全く反映させておらず、営業費用などから再商品化費用を充当しているにすぎない状況である。おそらく、パソコンメーカーも同様に処理するのではないだろうか。
内部化議論において、会計上(税制上)の問題を回避するため、年金方式(当期充当方式)で対応するという議論がしばしば浮上する。すなわち、当該年度に販売した製品に価格内部化して徴収した処理費用を、過去に販売した使用済み製品の処理に充当する方式である。直感的には、至って現実的な対応のようだが、実はいくつかの致命的な欠陥がある。

(1) 事業が成長期にある製品の販売に当たっては、現在の製品販売の中で処理費用が十分に賄えるが、衰退期にある製品販売の場合には、その衰退を加速させる可能性がある。要するに、企業間で成長力に格差がある場合、成長している企業を支援し、低迷している企業に多大な負担を負わせることになり、環境的な視点以外の影響を及ぼす可能性が高い。
(2) 現在販売する製品に処理費用を内部化したとしても、それが製造原価に反映され、企業の製品作りに影響を与えるものとはなり得ない。費用が充当されたにすぎず、本来のEPR政策の目的に合致しない。

ドイツでは、この問題にいかに対応しているのか。自動車リサイクルを例にとって見てみよう。
2002年7月に発効した新廃車政令では、同月以降に販売した車両を引き取り、リサイクルする義務を自動車メーカーに負わせた。さらに、2007年1月以降は、2002年7月以前に販売した車両に対しても同様の義務を負わせることになっている。
自動車メーカーは、この義務を履行するための財源を確保しなければならないが、独政府はEPR政策に相応する税法上の対策を実施した。所得税法などを改正し、処理費用を引当金として計上して、損金処理することを可能にしたのだ。

リサイクル費用の徴収方法と会計処理の違い
  徴収方法 会計処理の方法
<国内>
容器包装リサイクル法 製品価格に内部化し、特定事業者が使用量に応じて指定法人に再商品化費用を支払い

 

特定事業者が営業費用などとして処理。
特定法人が費用を確定するまでは負担額を決定できない
家電リサイクル法 外部費用として廃棄時に徴収 廃棄時徴収のために収入と経費は同一会計年度に発生し、会計処理する
自転車リサイクル法 販売時に預かり金として別途、徴収した上で指定法人に積み立て 費用発生時にその預かり金を上限としてメーカーが特定法人に請求し、会計処理するために問題なし
改正リサイクル法(家庭系パソコン) 2003年10月以降、新製品の価格に内部化 製品価格に内部化したため、今後、会計処理や税別への対応が必要になる
二輪車自主リサイクル 2004年10月以降、新製品の価格に内部化  

<ドイツ>

廃車政令 2007年以降、すべての廃車を無償で引き取り 所得税法と商法を改正、引当金として計上し、換金処理を認める。

引当金計上を認めたドイツ

具体的には、まず2002年4月に所得税法を改正し、「法律が発効する以前に販売されていた製品にかかわる引当金については、義務履行の開始までの期間に応じ、一定の割合で集積する」(第6章第1条3項)として、引当金としての計上を認めた。
さらに、商法施行令53条第1項では、廃車政令の経過的規定として次のように定められている。「2002年6月21日に公示された廃車令(3~5章)に定められた廃車引き取りとリサイクルに対する債務として、その決算日までに既に販売されていた車両に関しての引当金を、2002年4月26日以降に終了する事業年度の年度決算から計上する」
特に、商法改正では経過措置までを明確に定めている点が注目される。すなわち、このような引き当てを認める目的は、企業の環境に対する行動の変更を求めるものであるという政策的思想に基づいて、会計を含む税政策と環境政策が統合されているということである。
ドイツの政策変更の動きを見れば、日本の環境政策がいかに孤立的であり、他の政策との調整が進んでいないかが理解できるだろう。
前号で触れたように、日本の自動車リサイクル法は税負担の無い預かり金方式という制度を創設した。そして、その余剰金を活用して、不法投棄や遠隔地問題などの解決に当てるといった安全ネットを作る試みに挑戦した。その代償として生じる車両や預かり金の管理のための社会的コストを、消費者と自動車メーカーが負担する仕組みを用意した。
一方のドイツは、税制と会計を見直すことにより、日本に比べて社会的コストがかからない制度を創設した。さらに、EPR政策の本来の目的である、価格内部化を通じた企業行動の変更を求める制度になっている。ただ、安全ネットは全く用意されていない。
日独の制度比較は、必ずしも優劣がついているわけではない。しかし、EPR政策の根幹に処理費用の価格内部化があるのであれば、日本でも以下のどちらかを容認する制度変更は不可欠だろう。

(1) 〔引当金〕販売時に徴収した処理費用の見積り額を引当金に計上する方法(ドイツ型)
(2) (預かり金)収益の計上時期を処理費用の発生時まで預かり金、〔準備金〕として繰り延べる方法

こうした制度無くしては、何のための価格内部化なのかという根本的な問題に立ち戻ってしまう。
結論として、国内のEPR型リサイクル政策の事例を見て明らかになったのは、環境政策の孤立である。
環境政策の目的は、既存の社会システムを環境の視点から見直し、より環境負荷の少ない社会を目指すことである。しかし、実際には、既存の社会システムとの間で整理、統合されていないために、環境政策の進展を妨げているという状況である。まさに、環境政策の孤立がここに存在している。
政策的な孤立は、企業においては環境担当役員を含む環境部門の孤立へと発展しかねない。企業の環境対策は前進してはいるものの、他部門から切り離されて孤立しつつあるため、限界が徐々に見え隠れしているように思えるのは筆者だけだろうか。
(本稿の執筆に当たり、中村佳宏・中村佳宏公認会計士事務所所長の協力、助言をいただいた)

 
 
 
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